大判例

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名古屋高等裁判所 昭和28年(う)1075号・昭28年(う)1074号 判決

弁護人A、同Bの各控訴の趣意は記録中の同弁護人等各名義の控訴趣意書記載の通りであるからこゝに之を引用するが之に対する当裁判所の判断は次の通りである。

各論旨は、原判決認定の詐欺の事実につき被告人に詐欺の意思がなかつたこと、又は原判決が被害者として摘示している鈴木武は欺罔されていなかつたこと或は又いわゆる代理就労の事実は三重県当局において黙認されていたものであるから原判決は結局詐欺とならない事実を有罪と認定したのは判決に影響を及ぼすべき事実誤認の違法があると云うにあるから、考察するに、原判決挙示の各証拠及び当審における証拠調の結果を綜合すると、原判決が詐欺の具体的事実として記載した同判決別表中の各就労人員の中には真に当日就労した人員がないのに就労した旨紹介票を作成せしめて賃金の支払を受けたいわゆる幽霊人口を仮装した分と代理就労の名の下に失対事業の経営者たる同県当局が定めた適格者でない者を就労せしめ、事実就労していない適格者の氏名を記載して賃金の支払を受けその代理就労者にその賃金の支払を為した分とがあり、同表記載の人員の中いずれの分がそのいづれに属するかの区分は明確に判別することは出来ないが、同表記載の分全部を通じて共通の点は、同表記載の凡ての人員が全く就労した者がいないか又は前記の如き失対事業に就労し得る適格者の認定を受けた者ではない者が就労しているのに、賃金の請求を為すに際り前記組合の幹部たる被告人が、事実就労していない適格者の氏名を記載して賃金の請求をしその支払を受けたものであることである。かくの如く事実就労者がないのに、就労者があつたものゝ如く記載して賃金の支払を受けた場合は勿論、単に就労していない適格者の氏名を記載してその名において賃金の請求をしその支払を受けた場合でも、それ自体事実に反する虚偽の事実を記載して賃金の請求を為すに外ならず之によつて相手方に対し欺罔手段が用いられたものと認むるの外はない。各論旨は代理就労は認められていた旨論じ当審における証人鈴木武の証言その他前掲各証拠中には所論の如く代理就労の事実が黙認されていたものの如き供述を為している者があるけれども、是等の証拠は当審における証人駒田繁次郎、同佐藤明正、同村田俊枝に対する各証人尋問調書の記載内容及び証第三号同第六号同第七号の各紹介票の記載に比照して措信することは出来ず、却つて是等証拠により同県失対事業を管理する同県土木部松阪出張所当局においては所論の如き代理就労を認めていなかつたことを認めるに難くないからこの論旨は理由がない。

次に賃金支払の窓口事務を担当していた同県土木出張所員鈴木武は前記の如く当公廷において前記六呂木地内における工事についても代理就労者に対する賃金の支払を為した分があるかの如き証言を為しており、原判決は所論の通りその事実摘示の部において右鈴木武を欺罔し同人を錯誤に陥れと判示していることが明かであるが、同人はその証言によつて明かである通り、右土木出張所の一雇員に過ぎず同人が法令の解釈を誤り代理就労を可なりと思惟して一部の賃金を支払つた事実があつたとしても、失対事業の経営者は三重県であり、同県を代表して賃金支払の命令を発する出納責任者は同県土木部松阪出張所事務官庶務課長杉本悦雄であり、同人の当審における証言によれば、同事業につき代理就労を黙認した事実はなく、又賃金支払に先ち代理就労の事実があつた事を知れば仮令その支払の請求を受けても之が支払を為さなかつたことを明認するに足るから、結局本件においては詐欺の被害者として右杉本悦雄を判示するのが相当であるのに、原判決は漫然鈴木武を被害者と判示したのは些か粗漏のそしりを免れないが之を以つて未だ判決に影響を及ぼす程の事実誤認があるとは云えない。更に被告人の不在又は組合事務を離れた後の分についても被告人がその分につき犯行を阻止する為の特別の努力を払つた事実は認められないから結局この各論旨はいずれもその理由がない。

(裁判長裁判官 小林登一 裁判官 栗田源蔵 裁判官 石田恵一)

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